歯牙移植は歯を失った時の治療法です。
「自分の歯をできるだけ残したい」という願いはどの患者さんも共通します。
しかし希望しても、その口腔内の状況により限界はあります。
やむを得ない事情で歯を失った場合、通常は、
抜けた歯の両隣の歯を利用する「ブリッジ」や
顎の骨に埋め込む「インプラント」という選択肢、
または「入れ歯」が一般的ですが、
「自家歯牙移植」と呼ばれる方法もあります。移植には自家歯牙移植と他家歯牙移植がありますが、
現在は感染等の危険性の問題もあり自家歯牙移植のみを行います。
歯牙移植について
不幸にして歯1本を抜歯せざるを得なくなった場合に
最もお勧めしたい方法の1つです。
再生療法の一種になり、適応するドナー歯(移植用の歯)が必要となります。
親知らずや埋伏して機能していない本人の歯が一般的には利用されます。
一本抜けたところに親知らずや埋まっていた歯を移植して
抜けた両隣の歯を削らなくてすむのがポイントです。
移植される歯の根っこの部分には骨を誘導する「歯根膜」という
例えて言うなら靭帯のような組織があり、この歯根膜の
面積やボリュームがあれば異物反応も起こらず安定した歯が確保できます。
歯の移植は術後4~5ヶ月で安定し自分の歯として噛むことができるようになります。
また一部健康保険適応となる場合があります。
インプラント治療との違い
インプラントは人工物ですが、歯牙移植は通常、自分の歯を用います。
他の歯と同じように年を取りますが、自分の歯なので自然治療能力が残る事が特徴です。
最大の違いは歯根膜(しこんまく)が存在することです。
天然の歯の根と骨の間には歯根膜(しこんまく)と言われる薄い膜があります。
歯根膜は、噛む力をささえるためのクッションになる、
噛む感触を脳に伝えるための受容器になると言った特徴があります。
非常に重要な組織であり、歯にとっては大きなダメージとなる「噛む力」を
抑えるために敏感にそれを伝え、また多少強く噛んでもクッションになるという組織です。
インプラントには歯根膜が存在しませんので、
噛む力がダイレクトに骨に伝わり、そのままダメージとなってしまいます。
移植対応(対象)の方はどんな人ですか?
- 歯が折れたり、進行した虫歯・難治性の虫歯で奥歯を抜かなければならない方
- 既に奥歯を抜かれているが、親知らずは残っている方
- インプラントをいれようかブリッジにしようか考えられている方
- 選定的に永久歯が少なく隙間が多く空いていたり、乳歯が悪い状態で遅くまで残っている方
- 奥歯の抜歯を検討されている方
- 奥歯にヒビが入ったり、割れたりしている方
- その他、奥歯に痛みやうずきのある方など
- 移植のメリット
-
- 歯根膜も歯と一緒に移植でき、インプラントより自分の歯と同じような感覚で咬む事ができます
- インプラントに比べると安価で成長期の方にも行う事ができる
- 周囲の歯を削る必要がなく、歯の寿命をいたずらに減らしません
- 条件を満たせば、保険でも治療ができます
- 自分の歯なのでアレルギーが発症しません
- 移植のデメリット
-
- まだまだ技術的に新しい・難しいため、予後が不安定(予知性に劣る)と言われています。
- 健康な歯(親知らずなど)が必要であるという事
- 治療できる条件が限られる
- 外科手術が必要
- 高齢者では、治療の成功率が低下する可能性がある
移植とインプラントの違い
※右側にスクロールができます。
自家歯牙移植 | インプラント | |
---|---|---|
適応範囲 | 骨の量に対して制限が多い | 骨の量に対しての制限はあるが、 骨を造成する事で、適応範囲を広げる事が出来る。 |
ドナーの必要性 | 必要 | 不要 |
外科処置 (回数) (箇所) |
1回 2箇所同時に行う |
1~3回行う事がある 1~2箇所 |
骨の量・顎堤の幅 | 最低限必要 | なければ再生 |
骨質 | 影響大 | 影響小 |
歯根膜 | 噛み心地があります | 存在しません |
防御機構 | 有る | 無い |
適応能力 | 歯の移動など体の変化に適応しやすい | 歯の移動噛み合わせの変化に対応するため、 細やかなメンテナンスが必要です。 |
術後の歯の矯正 | 可能 歯の移動をする事ができます。 ※一部骨との癒着をおこし移動が 不可能な場合もあります。 |
不可能 (インプラントは移動できないため) ※インプラントの被せ物を交換する事で 適応可能な場合があります。 |
若年者への治療 | 適応 | 不向き |
高齢者への治療 | 対応可能 | 対応可能 |
長期安定性 | 5年生存率とも一般にインプラントより劣ると言えます。 移植歯は通常神経が死んでしまい、歯の根が割る、 被せ物虫歯等のリスクは未処理に比べ、増加します。 骨の癒着を経年的に歯の根の吸収をおこす事があります。 |
5年間機能する割合は90%以上 経年的に骨の吸収が起こる可能性があると言われています。 骨の吸収が直ちに機能に影響を及ぼすわけではありません。 |
成功率 | 手技は煩雑で難易度も高いため、成功率は劣ります。 | 一般にインプラントの方が成功する割合は高いと言えます。 |
治療期間 | 4~5ヶ月 | 6~12ヶ月 |
費用 | 一部保険適応 | 保険適応外 |
よくある質問
- 保険は使えますか?
-
保険でできる条件は、移植できる歯が「親しらず」で、抜いたその日移植する事が条件となっています。
また、既に抜かれてしまって、元々歯がない場合は保険対象外となります。
ご自身の歯の状態が「移植」可能かどうか、丁寧に診断させて頂きます。
- 抜いた歯は、どの歯にも(奥歯でも前歯でも)移植できるのですか?
-
抜いた歯の根と、移植する場所の骨の幅が合えば、基本的に移植可能です。
移植する場所に対して大きすぎたり、小さすぎたりする場合は移植する事ができません。
サイズの問題になりますので、事前に診査・診断が大切になります。
- 抜いた歯の頭(歯冠)はそのまま生かせますか?
-
歯の移植治療は基本的に「根」の部分だけ使用します。根がしっかりくっついた時点で被せ物を被せます。
- 歯牙移植は痛くないですか?
麻酔をして手術するので、治療中は痛くありません。
ただ、親知らずを利用するため、親知らずを抜いたときと同じような痛みや腫れは発生します。
ほとんどの場合はお薬の服用で治まります。